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長野県松本市内の知り合いの社長の病気見舞いに、約3年ぶりに、かつての勤務地である森の都・松本を訪れた。新宿からの高速バスが長野道の松本インターチェンジの大きなループを回る。山の端に夕陽が沈むころ、松本平(盆地)のビルやネオンサインが目立つようになる。松本駅前のイトーヨーカドー「アップル」裏で高速バスを降りたとたん、「自宅に帰ってきた」という錯覚が一瞬脳裏をよぎった。 中央郵便局前、パルコ周辺は再開発が進行。縄手の女鳥羽(めとば)川沿いの商店街は一掃され、新しく妙な茶屋風の商店が数軒立っていた。きつい言い方になるが、いかにも、観光客から金を巻き上げるぞ、という造りだ。古い城下町には不釣合いだ。四柱(しばしら)神社横の露店が建ち並んだ縄手(なわて)や、廃れた六区(ろっく)の方がはるかに、松本には似合う。 ![]() ホテルでチェックインしたあと、市内を散歩。大手町の民芸店で、壁にかかった一枚の額を見て驚いた。寄木細工の穂高連峰の額は見覚えがある=写真=。値札は2万5千円とある。 3年前、松本に勤務していたときに、見かけた寄木細工である。横17.2センチ、縦13.0センチ。B6判サイズほどの大きさだが、様々な色と材質の木片を組み合わせ槍ヶ岳を描いて≠「る。木のぬくもりを生かした重厚で味わい深い。 「この額は何枚もあるのですか」 「1枚だけです」 「すると、3年前からずっと」 「よくご存知で」 「3年前、松本にいて。その後、秋田に行きました。久しぶりに松本に来たもので」 「そういえば、よくお店に来てくれた方ですよね。信(州)大の先生ですか?」 「 いえ。すぐ裏の会社です」 「失礼しました」 こんなやりとりが店の女性とあった。当時、店をのぞくたびに欲しかった額だが、高価過ぎて手を出せなかった。買おうか買うまいか。持ち合わせの金を使うと、今夜の飲み代が少なくなる。一晩考えて、買うのであれば明日また来よう。店のスケジュールを聞いたら、あすは休みという。クレジットカードは使えるという。いつもの癖だ。女房に怒られるかも知れない。冬のボーナスは近い。25日は結婚記念日だ。いろいろな想いが一瞬頭の中を駆け回る。今日を逃してたら、買う機会がもうないかも知れない。清水の舞台から飛び下りる想いで購入した。 知己の友人と土井尻の小料理店で飲む。主人は、つるつるに頭髪をそり上げ、ねじり鉢巻姿。その容姿から「タコ坊主」と客から呼ばれ、本人もそう呼ばれるのを楽しんでいる。この主人も糖尿を患い、やややせていた。主人の口からポンポン飛び出す駄洒落は、この店の名物ともなっており、テンポに合わせられない客の中には、そのために、この店をきらうことになる。 めまぐるしく都市開発が進む中、古くからのなじみの店が生き残っているとほっとするものだ。 (1999.10.23記) Back | Front | Next |